ゴミバコ

本や音楽のレビューがあるかもしれません。別に通とかじゃないです。

さくら/西加奈子

26万部突破のロングセラー、文庫化両親、三兄弟の家族に、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた犬が一匹。どこにでもいそうな家族に、大きな出来事が起こる。そして一家の愛犬・サクラが倒れた--。

これは泣いてしまいましたね。普段作品をみて泣くことはあまりないんですが。

以前窓の魚を読んで、別の作品を読んでみたいと思いなんとなく手に取りました。窓の魚を読んだ後にいろいろ調べたんですけど、窓の魚の方がこの作者にとっては珍しい作風だったようで、同じような雰囲気ではないことを覚悟して読みました。確かに窓の魚みたいに謎が多く残る感じではなかったのですが、人間の感情のえげつない部分を切り取るような核は同じでしたね。

表現が素晴らしいと思いました。抜粋したい文章がありすぎてきりがありません。ほんと一例に過ぎないんですけど、「くっ。というくぐもった声がしたから、父さんが笑っているのかと思ったけど、そちらから流れてくる風がほんのちょっぴり震えていたから、僕は目をつむったままでいた。」とか。つまり父親が泣いてるのを察知して知らないふりをした、ということなのですが。こういう感じのすげえ表現が多々あります。

なんというか、使われている言葉自体は難しくないし、言っていることはわかるのに、「はっ」とさせられる表現はすごいと思う。チャットモンチーの歌詞に、「あなたを乗せてやってくる夜行バス ピンク色に見えました」ってのがあるんですけど、こういうのにはっとする。脳内で言葉にすることはないけれど、私達が確実に感じたことがあるような感情を端的に表現されると本当にはっとする。

最後の方でミキが泣きながら長々と話すところと、私達がキャッチャーではなくてピッチャーだったと判明?するところで泣きました。作者のあとがきにも。